「Hello,Again ~昔からある場所~」My Little Lover
記念すべき第二回目は、My Little Loverの「Hello,Again ~昔からある場所~」です。
「Hello,Again ~昔からある場所~」は、95年に発売された同グループの2枚目のシングルで、この曲も当然のようにミリオンセラーとなっています。
同曲は近年ではJUJUさんにカバーされて再度脚光を浴びたりと、世代ではない方でも馴染みのある曲なのではないでしょうか。
ギターのテーマメロディから始まり、Aメロ→Bメロ→サビとくる90年代定番の構成となっており、メロディやアレンジも日本人にとても耳馴染みの良いこの曲ですが、コンポーザー小林武史*1の匠の技がぎっしりと詰まった、計算し尽くされた名曲なのではないかと思います。
特に何と言っても、この曲の最も印象的かつ心を揺り動かされるのが、Bメロ〜サビへの転調部分です。
Bメロからサビに向けて転調する曲というのはある意味定番ですし、サビをドラマチックにさせる手段として、Jポップでは技巧的に利用されることが多々あります。
そこでいかに違和感なく転調させるかが腕の見せ所だったりするわけですが、この曲に関しては歌詞も含めてあまりにもスムーズかつドラマチックに移行していくので、一瞬「ん、何?転調した?」と巻き戻して聞き直してしまうほどです。
少し音楽的な部分でいうと、この曲はAメロBメロは「Key = Eメジャー」で構成されているのですが、Bメロに入ったところで通常Eメジャーでは使われることのない音階「G音」が出てきます。
通常、音階内で使われることのない音を出すというのは不協和音となり得るのですが、ここではあえて存在すべきではない不安定な音を出すことで、Bメロの歌詞と合わせて主人公の不安な心情を表しています。
さらにサビ前でもう一度「G音」を出すことで聴き手の不安を最高値まで煽ったところでそのままKey=Gに転調、かつサビのど頭の音がG音なので、一気に音楽的不安が解決するわけです。
つまり、転調後のキーの音階から持ってきた音を、あえてスケールとして存在すべきでない転調前に持ってくることで、Bメロで伏線を散りばめ→サビで一気に回収の図式を演出しているわけです。(こう言うと簡単に聞こえますが、なかなか狙ってここまでハマるものでもありません)
もちろん、曲を作っていくなかで偶然的に生まれることもありますが、小林武史さんはMr.Childrenを始め様々な超有名アーティストをプロデュースしている、誰もが知る超有名コンポーザーのため、「全ては計算し尽くされた技術の賜物なのではないか 」ということを感じさせてくれるんですね。脱帽です。
さらに歌詞的な部分に少し触れると、この曲も含めて90年代の売れた楽曲というのは、比較的普遍的 (抽象的) なことを歌ったものが多かったのでないかと個人的に思います。
あえて誤解を恐れずにに言えば、「結局何が言いたいのかわからない」と歌詞いうことです。
例えば逆のパターンとして、Mr.Childrenをあげて見たいと思います。
ミスチルを好きな人の中で、「歌詞がとても好き」という人は多いかと思います。
(あくまでも個人的見解) ミスチルの歌詞は、「日常の中に散りばめられた様々な事柄を、格好つけず等身大の言葉で描く」というのが非常にうまく、人々の心を打つのではないかと考えています。
歌詞自体に明確なストーリーがあり、言葉それ自体で季節や心情などの情景が浮かんでくる、というようなイメージです。
対して普遍的な歌詞というのは、それぞれのワード自体にはそれほど意味はないけど、曲を構成するパーツとして全体の雰囲気を演出する。という感覚です。
普遍的な歌詞の効果的な部分として、キャッチーでとっつきやすいワードを使いやすく、解釈のしようがいくらでもあるため、万人に刺さりやすいという点です。
つまり、「恋人と別れて悲しい」ことや「それでも挫けたくない」という雰囲気は伝わるけれど、「誰」が「何」をして「どうなった」がよくわからないことが多いのではないかなーを思います。(もちろんあえて明言を避ける方法)
「結局何が言いたいのかわからない」けれど「なぜか心にささる」というマジックが完成するわけです。
尚、個人的には普遍的な歌詞の方が好きな曲が多かったりするのですが、ここは完全に個人の好みによるところが大きいように思います。
この辺りはまた別記事で書きたいと思います。
ということで、Bメロ〜サビの転調を意識しながら、この曲をどうぞ。