90’s音楽研究所

90年代に流行った楽曲についての考察を行うブログ

「ロビンソン」スピッツ

第3回目の楽曲は、スピッツの「ロビンソン」です。

 

意図的ではないのですが、この曲も95年発売のシングルで、ミリオン(162万枚)を達成したスピッツ最大のヒット曲となっています。

 

ちなみにこの曲、最終的にスピッツで最も売れたシングルとなりましたが、実はオリコン1位は取っておらず、トップ3に入らなかったシングルの中で最も売れた作品という記録を持っているらしいです。

 

さて、早速この曲のポイントですが、何と言ってもイントロ(と曲の各所)で出てくる印象的なギターのアルペジオ

 

まず一般的な話からすると、前回の「Hello,Again ~昔からある場所~」でも出てきましたが、特にこの頃のJポップではイントロでサビのメロディやテーマとなるフレーズを、ギター等のリード楽器でソロ風に弾く曲が多く出てきます。(同じくスピッツの「空も飛べるはず」もまさにそうですね)

 

この様な手法はイントロにインパクトを出しやすく、またサビとイントロ両方にテーマ的なメロディを置けるので、よりオリジナリティを出しやすいというメリットがありますが、その分多用されるとありきたりになってしまうという側面もあります。

 

それに対して「ロビンソン」では、通常歌の裏で鳴るような、いわゆる伴奏のフレーズをそのままイントロに持ってきています。

 

一般的に伴奏というのは歌などの裏で補助的な役割で演奏されるため、メロディを邪魔しない様に良い意味で地味なフレーズが使われることが多いです。

そのため、イントロなどで利用しても曲に地味な印象を与えたり、そもそも曲全体がぼんやりしてしまうというデメリットもあります。

 

しかしそこがこの曲のすごいところで、地味かと思いきや、耳触りがよく印象的なアルペジオ、憂いのあるギターの音色と草野さんの声が相まって、逆に曲のイメージを最大限に活かし完成度の高い楽曲たらしめてます。

 

尚、若干異なりますが似た様なフレーズがサビの裏でも鳴っており、ここで全体の統一感を出す役割も担っています。

 

そしてここが個人的に一番のポイント。

 

この曲のアルペジオはギターで演奏されていますが、本来はピアノやキーボードなどの鍵盤楽器で演奏されるべきフレーズなのではないかと考えています。

 

音楽ジャンルにもよりますが、通常、楽器にはそれぞれの役割というものがあり、よくも悪くもその役割に沿ったフレーズを演奏することを求められます。

 

例えば、ギターであればギターっぽいフレーズというものが存在し、長い年月によって無意識にも人々の耳に馴染んでいるため、違和感なく頭に入ってくる様になっています。

 

これは多くの場合物理的な演奏面での理由も関係しており、片手で音階を弾くギターと両手で弾くピアノでは演奏可能なフレーズも異なるため、必然的に演奏しやすい形態が選ばれ、それぞれの楽器っぽい演奏というものが決まってきます。

(極端に言うと、ギターでは再現不可能なピアノの演奏があったりする)

 

それに対して、ロビンソンのイントロのアルペジオは、本来ピアノなどで演奏されるフレーズをあえてギターで弾くことで意図的に違和感を出し、それにより多くの人に他とは違うなにか新しさの様なものを感じさせているのではないか、という感想です。

 

事実、この曲のギターは激ムズと言うわけではないですが、ギタリストにとっては絶妙に弾きづらかったりします。(おそらくピアノで弾くと簡単)

 

この、ギターをギターとしてではなく、他の楽器の代替や効果音の様な用途で演奏する方法。

もちろんスピッツ以前にも同じ様な手法の曲はありますが、これ以降、特に2000年代のいわゆる空間系、雰囲気系の曲を作るバンドで似た様な方法が多用されていったのではないかと思います。

 

ロビンソンの様に、なぜかアンニュイな雰囲気がでるんですよねー。不思議ですね

 

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「Hello,Again ~昔からある場所~」My Little Lover

記念すべき第二回目は、My Little Loverの「Hello,Again ~昔からある場所~」です。

 

「Hello,Again ~昔からある場所~」は、95年に発売された同グループの2枚目のシングルで、この曲も当然のようにミリオンセラーとなっています。

 

同曲は近年ではJUJUさんにカバーされて再度脚光を浴びたりと、世代ではない方でも馴染みのある曲なのではないでしょうか。

 

ギターのテーマメロディから始まり、Aメロ→Bメロ→サビとくる90年代定番の構成となっており、メロディやアレンジも日本人にとても耳馴染みの良いこの曲ですが、コンポーザー小林武史*1の匠の技がぎっしりと詰まった、計算し尽くされた名曲なのではないかと思います。

 

特に何と言っても、この曲の最も印象的かつ心を揺り動かされるのが、Bメロ〜サビへの転調部分です。

 

Bメロからサビに向けて転調する曲というのはある意味定番ですし、サビをドラマチックにさせる手段として、Jポップでは技巧的に利用されることが多々あります。

 

そこでいかに違和感なく転調させるかが腕の見せ所だったりするわけですが、この曲に関しては歌詞も含めてあまりにもスムーズかつドラマチックに移行していくので、一瞬「ん、何?転調した?」と巻き戻して聞き直してしまうほどです。

 

少し音楽的な部分でいうと、この曲はAメロBメロは「Key = Eメジャー」で構成されているのですが、Bメロに入ったところで通常Eメジャーでは使われることのない音階「G音」が出てきます。

 

通常、音階内で使われることのない音を出すというのは不協和音となり得るのですが、ここではあえて存在すべきではない不安定な音を出すことで、Bメロの歌詞と合わせて主人公の不安な心情を表しています。

 

さらにサビ前でもう一度「G音」を出すことで聴き手の不安を最高値まで煽ったところでそのままKey=Gに転調、かつサビのど頭の音がG音なので、一気に音楽的不安が解決するわけです。

 

つまり、転調後のキーの音階から持ってきた音を、あえてスケールとして存在すべきでない転調前に持ってくることで、Bメロで伏線を散りばめ→サビで一気に回収の図式を演出しているわけです。(こう言うと簡単に聞こえますが、なかなか狙ってここまでハマるものでもありません)

 

もちろん、曲を作っていくなかで偶然的に生まれることもありますが、小林武史さんはMr.Childrenを始め様々な超有名アーティストをプロデュースしている、誰もが知る超有名コンポーザーのため、「全ては計算し尽くされた技術の賜物なのではないか 」ということを感じさせてくれるんですね。脱帽です。

 

さらに歌詞的な部分に少し触れると、この曲も含めて90年代の売れた楽曲というのは、比較的普遍的 (抽象的) なことを歌ったものが多かったのでないかと個人的に思います。

あえて誤解を恐れずにに言えば、「結局何が言いたいのかわからない」と歌詞いうことです。

 

例えば逆のパターンとして、Mr.Childrenをあげて見たいと思います。

 

ミスチルを好きな人の中で、「歌詞がとても好き」という人は多いかと思います。

(あくまでも個人的見解) ミスチルの歌詞は、「日常の中に散りばめられた様々な事柄を、格好つけず等身大の言葉で描く」というのが非常にうまく、人々の心を打つのではないかと考えています。

歌詞自体に明確なストーリーがあり、言葉それ自体で季節や心情などの情景が浮かんでくる、というようなイメージです。

 

対して普遍的な歌詞というのは、それぞれのワード自体にはそれほど意味はないけど、曲を構成するパーツとして全体の雰囲気を演出する。という感覚です。

普遍的な歌詞の効果的な部分として、キャッチーでとっつきやすいワードを使いやすく、解釈のしようがいくらでもあるため、万人に刺さりやすいという点です。

 

つまり、「恋人と別れて悲しい」ことや「それでも挫けたくない」という雰囲気は伝わるけれど、「誰」が「何」をして「どうなった」がよくわからないことが多いのではないかなーを思います。(もちろんあえて明言を避ける方法)

「結局何が言いたいのかわからない」けれど「なぜか心にささる」というマジックが完成するわけです。

 

尚、個人的には普遍的な歌詞の方が好きな曲が多かったりするのですが、ここは完全に個人の好みによるところが大きいように思います。 

 

この辺りはまた別記事で書きたいと思います。

 

ということで、Bメロ〜サビの転調を意識しながら、この曲をどうぞ。

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売れ線と売れる曲とそこそこの曲

90年代は、いわゆる定番や鉄板の手法が多く生まれ多用され、タイアップなどでより多くの人に楽曲を届ける、言葉を選ばずに言えば「売れ線」の曲が多かった様に思います。

またこれを揶揄するような表現をする人もいますが、僕は全く逆だと思っています。

 

今ではある程度楽曲製作もテンプレ化され、プロに限らずそれなりの素人でもそれなりに良い曲をかけたりします。

 

でも、定番の方法で誰もがそれなりの曲を作れる時代だからこそ、その中で頭いくつも飛び抜けて大ヒットする曲というのは、他とは違う光る何かを持っているということです。

 

矛盾するようですが、それはきっとこのブログで述べた様な考察だけでは語ることのできない何かなのです。

 

ミスチルは誰もが認めるトップアーティストで多くの名曲を生み出していますが、その中でも結果的に、最高に売れた曲、かなり売れた曲、そこそこ売れた曲の違いは何なんだろう、というのにも近いと思います。

ビートルズが、どうして当時あれだけ世界的にヒットしたのかということは、色々な側面から考察できるかと思いますが、なぜ半世紀たった現在でも色褪せることなくアーティストたちに絶大な影響を与え続けているのかは、明確に説明することはできないと思います。

 

美しいメロディ、心を打つ歌詞、時代背景、そのアーティストの持つオーラなど様々な要素が絡み合って、ひとつの奇跡を起こすことで名曲が生まれる。

その中のほんの一部でも紐解けることができればなぁ、と日々考えています。

「突然」 FIELD OF VIEW 

記念すべき第一回目は、FIELD OF VIEWの「突然」です。

 

なぜ突然この楽曲を選んだかというと、完全に自分が最近よく聞いているからという理由だけなのですが、改めて名曲だなーと再確認しています。

 

さて、95年に発売されたこの楽曲は、「作詞:坂井泉水、作曲:織田哲郎、編曲:葉山たけし」という90年代のビーイング最強の布陣で製作され、ミリオンセラー(122.4万枚)を達成しています。

 

なんといっても、当時のポカリスエットのCMの爽快感はハンパなかったように記憶しています。

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 90年代は、特にCMやドラマとのタイアップがCDセールスにおける重要な要素のひとつとなっていましたが、この曲に関しては商品、CM、楽曲とボーカルの声、の爽快感が最高にマッチした完璧なコラボだと思います。

 

この前後にもZARD揺れる想い」や、DEEN瞳そらさないで」などがポカリとタイアップしており、現代にも続く「ポカリCM」+「清涼感のある楽曲」=「大ヒット」の公式が出来上がっています。

 

さて、楽曲についてですが、この曲はJPOPで使われるド定番の構成で作られています。

いわゆる「Aメロ→Bメロ→サビを繰り返し」&「ど頭からインパクトのあるサビで入る」というパターンです。

 

また、これも90年代(特にビーイングの鉄板)の楽曲でよく出てくる手法となりますが、サビ頭の歌詞=曲タイトルとなっています。

 

上記のような構成や手法は定番中の定番ではあるので、場合によってはそれ自体で陳腐に聞こえてしまうこともありますが、インパクトのあるメロディ、歌詞でやるとこんなにも効果絶大だということがわかりますね。

 

この様に鉄板の手法で作られた「突然」ですが、個人的にこの曲のミソとなっている点は2つあると思っています、

 

ひとつは、アタマのサビと通常のサビどちらも「突然〜」という歌詞で入っているのですが、メロディ(正確には符割)が異なるという点です。

 

通常、サビは歌詞によって多少の符割は違えど、基本的にはだいたい同じメロディが繰り返されることが多いのですが、この曲ははじめのサビのみ比較的間延びした符割となっています。

 

2つのサビどちらもインパクトがあるのですが、あえてアタマのみ少し間延びした符割にすることによって、本サビの美しいメロディがより際立っているのではないかと思います。

 

ふたつ目は、何と言ってもインパクト絶大な「突然」というタイトル

今でこそ何の違和感もないタイトルに聞こえますが、当時特にロックバンドと言われる人たちの曲では英語のタイトルや、またはもう少し長い、文章的な日本語のタイトルが定番だった様に思います。

 

そんな中「突然」という歌詞、ましてや曲名にあまり似つかわしくない漢字二文字のみのタイトル。その字面だけでは内容が想像できないものの、一度聞いただけで印象にのこるこの曲名は絶妙だと思います。

 

さて、清涼感、爽快感という言葉がぴったりなこの曲ですが、何がそうさせているかというと、これもいくつかの要素があるかと思います。

 

もちろんメロディは重要なひとつですが、そのほかに編曲も曲のイメージを左右していて、曲アタマのコーラス、ドラムロール、全体的な強めのリバーブ感やBメロギターのディレイ、サビメロディとユニゾンするシンセ音、あたりがこの曲の爽快感を演出している様に感じます。

 

また、よく声にも表情があると言われますが、ボーカル(浅岡さん)の声に関しては、明るさや誠実さという言葉がぴったりだと思っています。

透明感のある透き通る声であり、さらにはっきりとした発音でストレートに歌うスタイルが、誠実さや清涼感を感じさせてくれます。

 

第一回目ということもあり長くなりましたが、そんなことを意識しつつ実際の曲を聞いてみると、少しでも共感していただけるかも。

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はじめに 〜90年代の音楽シーンと当時の音楽〜

このブログは、90年代に流行ったアーティストの楽曲を1曲ずつピックアップし、当時の音楽シーンを交えつつ、主に音楽的な視点で感想を書いてゆくブログです。

 

90年代は、記録媒体がカセットテープからCDに移り変わり、数多くのミリオンセラーが生まれるなど、日本国内においては最も音楽産業が盛んな時代だったといっても過言ではないかと思います。

 

最近では、懐メロ特集なんかで90年代のアーティストが再フォーカスされたり、カバーされたりということも増えてきていますが、「音楽的にはどうだったんだろう?」という部分を、なるべく懐かしさ補正を無くして考察していきたいなと思います。

 

とはいっても、専門的な話をするわけではなく、なぜその楽曲が売れたのか、どういったポイントが人々(当時の自分)を魅了したのかなどを、あくまでも個人的な見解を書いていけたらなぁと思います。(なので個人の趣向や独断、偏見も多分に含みます)

 

誰もが知る超有名曲から、当時そこそこ売れた曲まで様々なジャンルをピックアップしたいと考えていますので、当時を生きた人たちにはあのころの懐かしさを、新しい世代には今のシーンにつながる発見を少しでも提供できたら嬉しいです。